引き際が見えない人

これはいつまでも、引かないという、興味深い元管理者の話。

ある元管理職の下に部下が2人いる。1人は長い間の上下関係にあり、主従関係に近い。もう1人は、最近、その管理職の手元に呼び戻してもらった人で、長期間の信頼関係がある。この管理職は、社外の仕事も積極的に行なっていて、社内と社外の立場を使い分けている。社内では雇用延長中で管理職は退いている。でも今でも社外で、それなりの立場と影響力を維持している。その管理職の社内外での肩書き上の引退が近く、肩書きがなくとも影響力を有し続けるために、この2人の関係を改めようとしていた。

元管理職の意向は、後者を社内で自分の後継者と褒めつつ、社外での自分の肩書きの多くを譲り、前者には社内で前者の指揮下に入らせることであった。これで、後者を通じて、社外への影響力を行使しつつ、前者に社内での自分と後者への便宜を図らせようとしたらしい。後者は、キャリアパスの制約から、社内では元管理職と同じ立場には立てない。また年齢は後者の方が少し上だが、一回りまではいかない。

元管理職の後継ぎ、という響きにどれほどの魅力があるか分からない。

前者は仕事量に敏感で、都合よく使われている代わりに得ていた支援と保証が、実はちょうどよかったらしい。それでも、その関係を年が近い後者と再構築する気はないようだ。後から来た少しだけ年上の人の下に入ると、頭を抑えられることにもなるので、あまり気持ち良くもないように感じていると見受けた。

後者は、全てではなく自分に利のあることは引き継ごうとしている印象がある。ある肩書きについて、後を頼むと言われた、と後者から聞いた。これまでも後者は元管理職の社外の仕事を分担していて、それらの一定量を引き受けて、影響力を有する立場に立つことには抵抗感がないようだ。慣れていることだから、芸と言えば芸で、新鮮味はない代わりに外れもない。

前者は永い友人で、後者は古くからの知り合い。どちらを支えるかを考えても、人のことは二択問題では済まない。どちらもそれなりに支援するしかない。でも状況は、元管理職の思惑からは外れつつある。

前者から便宜を図ってもらうのは難しくなってきた。後者は表面上は支えてあげているが、距離を取りつつある。私は計算に入っていないが、どうも何もしなくて良くなったらしい。それでも、元管理職は表面上は、従来通りの影響力を有している気分に浸りたいようだ。引き際が見えず、いつまでも現役世代に甘えたいようにしか見えない。