猫様、おはようございます

今朝は家族全員が早起きした。私は前夜に飲みすぎて早めに床に就いたため。家族は某アミューズメントパークに行くため。まだ空は暗かった。部屋の照明をつけずに動き始めたが、猫が私たちの動きに反応して、身を起こした。

猫様、おはようございます。

うちの猫様は、押入れの中が好き。布団を引き出した後に開いたスペースで、よく寝る。入り込まれた後に引っ張り出そうとすると、シャーッと威嚇音で鳴いてきて、気も立ってしまうので、最近は諦めた。襖を開けておいた方が悪いのだ。そこら中に乱立した、人間が別荘と呼んでいる、段ボール箱の中でも寝るのだが、押入れは一番のお気に入りらしい。

ともかく今朝は、押入れの中にいた。

私が朝湯をしている間に出て行った家族をドアまで見送り、その後は私の風呂上がりを風呂場の外で待っていた。

はいはい、ご飯ですね。

うちの猫様は、朝のルーティンが決まっている。食事を思い出したら、起きている人間に擦り寄る。可愛く鳴く。人間の足に体を軽く擦り付けて通り過ぎる。尻尾を振りながら歩く。そこらの紙袋や箱、ドアのヘリ、ゴミ箱の縁、冷蔵庫など、ともかく顔をすりすりする。これが、ご飯待ちのメッセージ。人間が、食器とスプーンを手に取ると、毎朝勿体ぶって待たせるな、という気持ちの表れか、ニャー、と一鳴きする。かなり初期から、ご飯の時は行儀は悪いが、スプーンで食器をキャンキャンと叩きながら、台所から檻まで先導している。向こうが先行すると、途中で待っていてくれて、右手でポンポンと人間の踵か後ろ脛を一回か二回叩く。早く来い、という意味か、迷子になるなよ、という意味だろうかと思いつつ、叩かれた方も喜ぶ始末。

食事の上げ方は、私と家族では異なるらしい。私は盛り付けるまでは待たせる。家族は盛り付けながら食べさせていると聞いた。食事の量をグラムで計れ、と言ったのは家族たちではなかったか。盛り付けたら、一つを手のひらで味見させて、あとはボナペティだ。

これで暫く、自分の朝の支度をする時間が稼げる。私は猫様が食事を始めると、檻のすべてのドアをそっとしめる。猫様が食後にトイレまで済ませたら、暫く檻の中で構ってから、外にでたところを捕まえて、お尻を拭いてあげる。食事だけの時は、そのまま解放してあげる。それが猫様の近未来。

最初の頃は、食後に2階で待っていて脱出の機会を伺っていた。最近は3階に登って人間の出方を見ることが多くなった。トイレまで済ませていると、人間が捕まえにくるのを覚えているのか、さっさと4階に上がる。猫様は、檻から引っ張り出されることに抵抗する術を身につけている。4階にあるベッドに乗って、全体重を腕にかけて柵にしがみ付くのだ。これが実に可愛い。しがみ付いている時の顔が、猫様の本当の真顔だ。

最近は、食後のマッサージを覚えた。食後に4階にいる時に、首から背中にかけての脊髄を柔らかくマッサージしてあげていた。私が猫にちょっかいを出す時に、猫との距離を計り損ねることがあり、引っかかれたり、噛み付かれたりしていた。何かのウェブサイトで、猫をマッサージしてあげたら、満足してもういいというまでやってあげないと、お代わりを求めにくる、という記述を読んだ。猫様は、もういい、というメッセージを放つのか。それを調べたくて、やってみると、確かに噛み付いたりひっかいたりする前に、微妙に態度が変化する。ある時は、喉を鳴らすことをやめるだけ。別の時は、うーん、と少しだけ鳴く。またある時は、マッサージしている手を、脚で押し出す。毎回少しずつ違うが、確かに、もういい、という態度を見せてくる。それが面白くて、続けていたら、どうも猫様にも習慣化したようだ。食後にさっさと4階にいることが増えた。

大抵、3分から10分で飽きてくれる。猫様の朝は忙しいので、あちらものんびりとマッサージを受けているつもりはないのかもしれない。

ベランダのパトロールも猫様の大事な習慣だ。ベランダの柵の前に座って、柵の隙間からじっと外を見る。私は、猫様は世界を見守っている、と評しているが、虫や鳥などを探しているのかもしれない。虫がベランダに迷い込んでくると、大喜びで追いかける。

春から秋にかけて、外が暖かい時期は、食事の前にパトロールに出ることもある。寒くなると、通常は食後だ。今夏に、日中に長く出しすぎて体調を崩したことがあったので、外の様子を見ながら、時間は制限するようにしている。冷房を使って人間が室内にいるときは、短時間だけ、といった風。外が寒ければ、すぐに戻ってくる。外が荒天なら、そもそも出ない。強風でも出ない。

日差しが良い日はパトロールの後に、遊んで欲しがる。どこの猫も同じようなものらしいが、うちの猫様も、光点が好きだ。金属のハンガーの反射、鏡の反射、腕時計の反射、スマホの反射など、光の点を動かすと、数分は飽きずに追いかける。猫様が光点を見つけると、けたけたけた、と猫の喜び方としか言いようのない鳴き声を放つので、すぐに分かる。ネズミなどを捕まえる前に、音を立ててしまったら、逃げられるのではないかと思ったこともあった。でも、幸いにうちの猫様は野生ではないので、獲物を追いかける特性は備えていても、食事に困らない。まあ、いいか、と考えなくなった。

今朝は風呂の中でのんびりしすぎて、食後のマッサージを省略した。気づいた時には、もう2階で出待ちをしていた。トイレを済ませていたことは、音で気づいていたので、急襲してお尻と手足を拭いてあげた。その際にぐるぐる回して遊んだら、お礼は足の甲への爪立てパンチと本気噛みだった。少し出血した。遊んでごめん。

ここからやっと本題。

一旦は別荘に引っ込んだ猫様が、私が風呂場の足拭きを外に干そうとベランダに出ると、別荘から出て、私の後を着いてきた。今日は家族が誰もいないので、ベランダに長時間出してあげることはできない。それでも外で遊びたいのかと思い、短時間ならと外にだしてあげたら、すぐに戻ってきた。そうか、入りたいのか、と入れてあげても窓のところで佇んでいる。

これは光だ。光点を追いかけたがっている。

そう感じたが、こちらも出かけるところだったので様子を見た。着替えて、支度をして、また見たが、微動もしないで、こちらを見つめている。

仕方ない、と諦めて、手鏡を持ってベランダに出た。こちらが手に何かを持っているのを見て、すぐに、けたけたけた、と興奮した。

ベランダで日当たりのよい場所に立ち、鏡で反射させた光の点をあちらこちらに投じて、猫様に追いかけていただく。全力で走ってもらうと、程なく息が切れて走らなくなる。そこを逃さず、室内に誘導すれば、遊びは完了。

室内に戻って、水を多く飲む猫様を横目に、今度こそと外出の準備を終える。猫様が別荘にお戻りになったところで、こちらもそれでは、と出かける。

これが、私の朝のルーティン。長いだろ。